微睡みに漂う言葉

思ったり、考えたり、気付いたり、そんなことを綴っていきます。

広島を歩く〜⑤弥山と夕べ

 
ロープウェイで山頂まですぐ着くかと思ったら、
そもそもロープウェイまでが遠かった。
 
緩やかな山道を歩く。
紅葉がきれいで秋に来てよかったなと思う。

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(着物姿でここ歩くのすごいなと思ったけど風景によく合っていた。ギリギリ肖像権的にセーフな写真と信じて…)

 
鹿もたくさん。
ここでようやく一眼で鹿をシャッターに収める。

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(目がきらっきら!ばんびかわいい。)
 
15分も歩くと思っていたよりもよっぽど本格的なロープウェイまでたどり着いた。
途中一回乗り継いで頂上に向かう。
 
 
ゴンドラから降りたのはちょうど16:00くらい。
ただ帰りのロープウェイは長蛇の列となっていて、なんでも70分待ちらしい。
 
登ってから分かったのだけど、このロープウェイの到着地から弥山の頂上までは片道30分ほどさらに登山をしないといけないらしい。
 
ただし最終のロープウェイ下りは16:30。
間に合わないかもしれないという思いはあったけど、70分待ちだし少なくとも17:00くらいまでは動いているだろうと見越して登山を決断する。
 
 
…正直、めちゃくちゃきつかった。
リュックサックは参考書も入れていたから重量があるし、暑いからコートも脱いでいた。それでまた荷物が多くなる。
一段一段はあまり幅がないものの坂道と階段が交互に来るせいで自分のリズムが掴めない。
 
さらに心細かったのは、反対方向から下山する人にしかすれ違わないことだ。
誰ももう登山はしてないらしい。
「果たして帰りに間に合うのか」と自問自答しては、わ、まつぼっくりだー、なんて一人で考えて現実から都合よく目を背けていた。
 
 
20分ほどして、広場に出た。
(20分って大したことないじゃんって思うかもしれないけど、荷物重&心の焦り&全力ダッシュで相当厳しい!)
 
疲れて一度ベンチに座ると汗が次から次へと溢れ出す。
頂上まではあと300メートルほどだということだ。
 
今来た道を戻っても16:30には間に合わないが、下山のロープウェイが運行している時間にはきっと帰れるだろう。
逆にこれ以上進むと戻るのは17:00前になってかなり怪しい(というか迷惑)かもしれない。
 
 
悩む。とても悩む。
まぁ最悪、徒歩下山のルートも整備されているらしい。間に合わなかったら自己責任でその道を選ぼう。嫌だけど。
ごめんなさいという気持ちを抱きながら僕は登山を決意した。
 
ガクガクになった足に鞭をうってダッシュで上へ上へと目指す。
麓で見たばんびの足取りを心配している場合では全くなかった。
 
ラマーズ法を駆使しながら呼吸を整える。
使い方は違うかもしれないが関係ない。
がむしゃらに走っているせいか頭の位置もぶれぶれで目まぐるしい。
こんなに苦しいの久々だ。
 
でも、のぼる。のぼるのぼるのぼる。
そして、頂上にたどり着く。
 
 
当たり前だけど誰もいなかった。
 

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(良い色だなと思いながらも余裕がなくて乱暴にシャッターを切る)
 
沈む夕陽を独り占めするのは心地よいが疲労感と切迫感がサンドイッチに押し寄せてくる。
3分だけ、と決めて腰を落とす。
 
息を整え、インナーだけになる。
周りを見渡すとこんなところにも鹿がいた。
ここには上げないが、せっかくなので一緒にツーショットを撮った。
全くこっちに関心を示さなくて、そんなありのままの振る舞いが愛おしくなる。
 
時間が過ぎるのがあっという間すぎる。
約束を守る男になろうと突然決心して、その場を去る。
 
分かっていたが、足に疲労がたまると下りのほうがキツイ。
ふとした拍子に膝から崩れ落ちそうでとても危険だ。
 
僕はできるだけ何も考えないまま階段を下ろうと段数を数えることにした。
200段目くらいで、二人組のおばさま方とすれ違った。これからこの人たちは上を目指すのかと自分を棚に上げて驚いたけど、会釈をするだけに留めて走り抜けた。
 
命からがらという表現ではないのは分かっているが450段ほどの階段(実際は坂もかなり多いから体感としてはもうプラス200段近くある)を数えてやっと戻ってきた。
 
時刻は16:42。かなり頑張ったと思う。15分弱で戻ってこれた!
 
まだ下りの列に並んでいる人は数十人いて安心する。
と思ったのもつかの間、スタッフの方が荒々しく来て、そろそろ締めるから早く建物に入るようにと促していた。
あまりにもテキパキとドアに鍵をかけたり、ものを片づけるものだから本当に早く帰ってきてよかったと思った
それと同時に、あのすれ違ったおばさま達は戻れるのだろうかと不安になる。
 
結論から言うとおばさまたちは途中で道を引き返す決断をしたからなんとか最終のロープウェイ(16:55頃)には間に合った。スタッフの人は怒っていて怖かった。
 
そして、一緒にゴンドラに乗りながら間に合ってよかったですねぇなんて話していると、どこから来たのと聞かれた。
僕は一瞬だけ悩んで、愛知です、と答えた。
おばさまのうちの一人の娘さんが愛知で働いているらしくて、話が弾んだりした。
 
僕は愛知から来た人にカテゴライズされるんだよなと改めてこのとき思った。
それがなんだか寂しくて、少しだけ受入れ難かった。
 
 
下山をして、来た道を戻り、帰船する。
心地よいというには強がりなほどの疲労を抱いて広島電鉄に乗り込む。
 
帰りは早いもので体感としてはすぐに宿につく。
 
夜ご飯を食べる相手もいない。
現地のバーなどに行って誰かと仲良くなるということも考えた。
けど、いま一歩のところでそこまでしようという気持ちになれない。
 
とりあえずは観光地として有名な、
「お好み村」というビルの中にお好み焼きが数10軒入っているところへ行く。
もくもく食べて酒を飲む。
美味しかった。
 
んーどうしよう。何かもったいない気もする。
こういうとき、T同期とかなら迷わずガールズバーとかに行くのだろう。
彼と一緒に奄美大島に旅行行った時もそうだった。
彼の選択肢にはあまりにも自然にガールズバーがあり、一緒に行った。
システムとしては正直あまり自分には向いてなかったが、地元の観光地とかオススメを聞けるという意味では、値段以上の意味もあったことを思い出す。
 
でも、コロナ禍だしなぁ。
 
素朴で優しい雰囲気をもつM後輩を思い出す。
彼女ですら、会社の先輩がガールズバーに行きコロナ陽性になったとかで、信じられない!と憤慨していた。
万が一、自分が今からそういうところに行ってコロナにでもなってしまった日にはM後輩に怒られるに違いない。
それはそれで少し魅力的だけど、リスクのほうがだいぶ上なのでやっぱやめようと思う。
 
結局、僕がしたことというのはコンビニでストロングとつまみを買うことだった。
 
ホテルの部屋に戻り一人Youtubeを観ながら晩酌する。
しっかりこれはこれで幸せだった。
 
幸せの形を決めるのなんて、ほら自分次第じゃないか。
 
眠気に誘われた僕は23時を待たずして寝てしまった。