微睡みに漂う言葉

思ったり、考えたり、気付いたり、そんなことを綴っていきます。

広島を歩く〜➃宮島に辿り着く

 
原爆ドームの隣にある折り鶴タワーで昼飯を食べようと思ったらコロナの影響で営業していなかった。
入口の窓ガラスをじっと5秒ほど見つめていたけど、何も変わらないからやめた。
 
でも、ラッキーだ。それなら僕にも考えがある。
一人でそんなことを思いながら、広島名物なる汁無し担々麺を食べようと近くの店を調べ10分ほど歩く。
 
着いたのは「汁なし担々麺 麻沙羅 」
強そうな名前だ。マサラタウンがこの麻沙羅 表記なら、サトシもポケモントレーナーではなく天下一武道会で優勝を目指していたに違いない。
 
注文時、聞かれたのは「辛さ」と「しびれ」。
しびれは山椒によるアクセントらしい。関東や東海ではあまり聞かない文化だ。
無難に中程度の辛さとしびれでお願いする。
 

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(ご飯と温泉卵もついて700円だから、お得感がある。)
 
予想を裏切らず、よく混ぜ、食べるととても美味しく、ここで学生生活を過ごしたら定期的に食べるのだろうなと思った。
食べ終わったあと唇が少しヒリヒリした。
でもこれもきっと癖になるのだろう。
それこそ、しびれを切らしたら来るようなところなのかもしれない。
 
 
時刻は13:00過ぎ、広島電鉄のフリーパスを購入し宮島に向かう。
最初の数分こそ窓の向こうの見慣れない景色を見ていたが、再び『雲のむこう、約束の場所』を読み進める。
 
 
作中出てくるヴェラシーラという名前をつけられた白い飛行機は、名付けられたその瞬間から「可能性」が宿る。
やはり名前をつける行為というのは尊い(と僕は考えている)。
これはこういうものだという在り方を外に表明する。
名前というのはそれだけある種の責任があるものだ。
 
画竜点睛という言葉がある。
確か、竜の絵を描いて最後に目を書き加えたら実際に飛び出していったみたいな逸話があって、そこから「物事を完成させる最後の仕上げ」というニュアンスになったはずだ。
 
僕は創作物の画竜点睛はタイトルにあると思っている。
勿論先にタイトルありきで始まるものも多くあるのだが、やはりタイトルが端的にその創作物のあらゆる可能性を内包すべきだし、最後につけるのが良いのだと思う。
 
だからというか名前をつけるというのは僕としては神聖な儀式みたいなもので、かなり時間を要する。
自分が新しく名を与えるというよりかは、どちらかというと対象がもつ真名を捉えようと当てもなく探す旅に出るという方がニュアンスとしては近い。
 
その難しさを少しは知っているからこそ、素敵なタイトルの作品に出会うと心震える。
例えば、
 
八重野統摩さんの「ペンギンは空を見上げる」
三秋縋さんの「君の話」
河野裕さんの「昨日星を探した言い訳」
 
上記小説は読み終わったあとに、このタイトルで良かった。このタイトルをよく見つけてくれたという気持ちになる。いつか自分も自身の創作に対してこれしかないという名前をつけてみたい。
 
 
宮島口まで着いてフェリーに乗る。
恥ずかしながら、つい先日まで宮島は江ノ島と同じように本島と橋で繋がってるものだと思っていたから、フェリーに乗れてラッキーだという気持ちがあった。
 

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ななうら丸、素敵な名前だと直感的に思った。七に浦だと良いな。)

乗船は良い。出港の浮足立ったワクワク感が乗客全員にそこはかとなく共有されている気持ちになる。
また、旅が始まる。そんな風に思う。
そしてあっけなく進み始めた船は、わずか10分の時間で宮島までたどり着く。
 
 
着いてすぐ、鹿がいた。
あまりにも普通にいすぎるためか、既にいた観光客でシャッターを構えている人はいない。
少しお上り感があると思われるのが恥ずかしくて、僕は写真を撮れなかった。
 
周りを見渡すと一人で来ている人は少ない気がする。そのことに寂しさを感じながら歩く。
 
鹿はやっぱり結構いた。
鹿が見えなくなって1分も歩くとすぐ次の鹿に会うくらいにはいた
案外、個体によって毛並みの綺麗さとか違うものだと思った。
 
そういえば、今仕事でやり取りをしている女性も、苗字に「鹿」の文字が入っていた。その人(Sさんとしよう)は、ある企業の広報の方なのだが、打ち合わせのために数度メールや電話をしている。
文面も非常に丁寧で好感が持てるし、朗らかな電話越しの声も耳に心地よく、役得だと思っている。
 
Sさんと僕は恐らく一生会うことは無い。
なのに影響を受けて、もっと自分も他人にやさしくしようと思える。
それって改めて考えると不思議なことだ。
 
(余談だが、後日仕事でZOOM会議をしてSさんと1分ほど話した。
 やはり文面や声から想像がつくような素敵な人だった。
 歳は同じくらいか少し上の気がするが、左手の薬指に指輪があるのが見え、幸せな結婚生活を送っているといいなと心の底から思った。…でも率直なことを言うと少しだけ寂しくなった。どうせ会うわけでもないのに、なんと自分勝手な感情だろうと自分でもあきれた)
 
 
厳島神社の大鳥居は、前情報通り工事中だった。

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(なんか悪いことしたのかなってくらい囲われてて笑ってしまった)
 
もし、これが満潮時にしっかりそびえ立っていたら迫力あるだろうなぁと思った。
ただこの時間は残念ながら干潮のピークに近いくらいだったので、正直あまり見応えはなかった。
潮が引いた砂浜を散策する観光客が潮干狩りをしているようだし、これぞ厳島神社!という荘厳とした雰囲気ではあまりなかった。
 
300円ほど払えば、神社内の廊下も入れるのだけど今回は諦めた。
せっかく行くなら満潮で大鳥居が見えるときが良い。
また来る言い訳をそっと置いておく。
 
 

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(そうだ、宮島に行こう。そう言いたくなるような一枚だ。もし満潮ならだけど。)
 
ただ、ここからどうしようかと思う。
あまり宮島のことを調べずに来たせいで途方に暮れる。
 
近くの看板を見る。
書いてあったのは弥山というパワースポットの山へのロープウェイ&登山。
そしてもう一つは宮島水族館
 
一人で水族館に行くのもいい。
ただ、山は一人で登りたい。そのほうが気が楽だ。
なので、未来の可能性を残すため前者を選ぶ。
 
いぇい登山スタート!なんて心の中でウキウキする。

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(山への入り口、紅葉がきれい)
 
この時は知る由もないが、
今年いち過酷な2時間が始まりを告げた。