微睡みに漂う言葉

思ったり、考えたり、気付いたり、そんなことを綴っていきます。

広島を歩く〜①プロローグ

 
2020年11月16日(月)。 
5時の目覚ましが一日の始まりを告げる。
 
最近のお気に入りは『変わらないもの』。
冒頭のピアノの和音の優しさと根底に通奏してる力強さみたいなのが朝にピッタリだと思って、ここ一ヶ月くらい「時を超えてく想い」に背中を押されながら目を開ける。

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(ちゃっかり乃木坂メンバーのカバーのものを聴いている。声が好きなんです。)
 
 
起きてすぐシャワーを浴びた。
微睡む身体を洗い流して、旅の高揚感へと気持ちをアジャストする。
 
昨夜、すっかり諦めた支度をササッと終わらせながら、
なんでたったこれだけのことに取り掛かれなかったのか過去の自分に呆れたりなんかもする。
 
 
05時46分、少し早足で家を出る。
06時10分、名古屋駅で新幹線の発券に少しだけ苦労する。
06時19分、のぞみ博多行きの始発に余裕なく搭乗する。
 
3日ほど前からS後輩が好きだと言っていたsumikaを聴くようにしている。
今まで機会がなくて聴いてなかったことが悔やまれるくらい、アップテンポの中に滲み出る優しさみたいな雰囲気はすごく好みだ
まだ全然詳しくないけど『唯風と太陽』という曲が良い。
 
「目が消える笑顔 グーの手を口に当てて」
「君が 君が 笑っていたそれだけで嬉しい」
「恥ずかしいけど 僕は風を」
 
こんな当たり前の風景を愛して、目の前にある幸せを噛み締めて、自分はこうなりたいという想いを抱きながらずっと生きていけたらいい。
実は少しだけCメロの歌詞に異議を立てたいところもあったりするんだけど、そうゆうところも含めてまるごとこの曲の魅力なのだろう。
 
 
新幹線の指定席を探しながら歩いていると、これから旅行に行くのだと言う実感が湧き上がる。
そこそこ乗っているはずだけど、まだ僕の中では新幹線は特別な乗り物として確立されているようで嬉しくなった。
座席は空席が目立つのに、何故か僕の指定された席は三人がけの既に二人が隣に座っている場所だった。
少しだけ気まずくて、何も言わず1つ前の席に陣取る。
 
車掌さんがチケットを確認しに来た。
指定された席に座ってないことに、朝から困らせるの申し訳ないなぁとか小言言われそうだなぁとか考えてしまう。
 
でも、車掌さんは後ろの席をチラッと見て理解すると、
「あなたが今座ってる席も、京都から予約してる方がいるので」と、別の空いてる席を手元の機械で探して提案してくれた。
その物腰の柔らかさと優しさに触れ、心が温かくなる。
 
ほどなくして探してくれた別の席に移動して感謝を伝える。
車掌さんは一度去ると、数分して戻ってきた。
 
車掌「いま移動された席は大阪から別の方が隣に座られるので、広島まで横に誰もいない席を改めて探しました。そちらに移動されますか?」
 
わざわざ、姿が見えなくなったあとも気にかけてくれていたのかと少なからず感動する。
こんなことでも新幹線というものが好きになるし、旅が楽しくなるような予感がしてくる。
先ほどよりさらに丁寧に感謝をしながら新しい席に移動して、僕はリュックから小説を取り出す。
 
タイトルは『雲のむこう、約束の場所』。
新海誠監督が2004年に公開した映画のノベライズ版だ。
 
ただ映画を本にしたというわけでは、まったくない。
ノベライズ版著者の加納新太さんが、繊細に情景や心理描写を加え、丁寧に映画作品の補完を挟みつつオリジナルストーリーも盛り込んだ秀作となっていて、1つの小説として映画とはまた違う意味合いで味わい深く完成している。
 
 
第二次世界大戦後、ロシアを筆頭に生まれた共産国家群「ユニオン」が北海道を「エゾ」とし支配下に置き、天高くそびえ立つ塔を設立。
主人公らは青森に住む学生で、塔を海の向こうに見て育ち、飛行機を作る。
 
僕はこの作品は、塔を巡る主人公たちの「憧れとしがらみと約束」の物語だと思っている。
実はストーリーの根幹として平行世界の話なども絡んでくるので2004年当時としては目新しさもあったんじゃないだろうか。
興味がある人には是非小説を読んでほしい。
映画からでも勿論大歓迎する。
 
 
 
 
さて、そんな『雲のむこう、約束の場所』には
主人公とヒロインの少女がヴァイオリンを弾くシーンがある。
曲の題名は「遠い呼び声」。
この作品のテーマソングでもある。
ふわりと浮遊したまま所在なく曲は終わるのだけど、
それがこの作品の本質的な部分とよく似ていると思う。
 
名古屋から2時間ほど読書に没頭した僕は、次の駅が広島というアナウンスを聞いて、広げていた荷物をそそくさとまとめる。
 
そして、どんな音楽を聴きながら降り立つのが良いだろうと少しだけ考え「遠い呼び声」を選ぶ。
なんてったって、タイトルが今日の目的地に合ってるかもしれない、浅はかな気持ちでこの時の僕はそう考えていた。
 
Amazon musicでダウンロードしたヴァイオリンの音に静かに心を震わせながら、僕は広島駅のホームへ降り立った。